太古の記憶   



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大な氷河を抱く南東アラスカの山々。遥か昔に山間部へ降り積もった雪は氷河となり、長い年月をかけて海岸部まで押し流されてゆく。そして、その氷河は爆発音にも似た音をフィヨルドの谷に轟かせながら、再び海に帰ってゆく。長い長い、人の一生を遥かにこえた水の輪廻。



山脈の懐に抱かれるように広がる沿岸部の森。太平洋沖に弧を描くように流れる黒潮は、雲をもたらし、氷河が後退して出現した新生の大地に大量の雨を降らせ、大地に生命を蘇らせた。長い時間を経て、ゆっくりと森が形成され、いつしか巨木が生い茂る太古の森を沿岸部一帯に生み出した。樹齢数百年、ときに千年をこえる老木は、やがてその生を終え、大地に身体を横たえて自らを若い生命に捧げ、再び土に帰ってゆく。



森の木立を流れる沢には、海の栄養分によって育てられた無数のサケで溢れ、クマが木陰から姿を現し、いとも簡単にサケを口に咥えて森に帰ってゆく。海の栄養分を含んだサケの亡骸は森の樹木を大きく育てる力を持っている。森の奥深くの沢に生まれ、豊饒な太平洋の栄養分に育てられて再び生まれ故郷の川に帰ってくる。やがて、その生を終えたサケの身体は水に溶け、土に染み込み、別の身体に吸収されてゆく。森と海を繋ぐもの。



太古の昔から沿岸部の森に暮らしてきたトーテムポールの民。生命に満ち溢れた森と海の恵みに生かされ、太古から続く伝説の記憶をトーテムポールに刻み込み、未来の子孫へと語り継ぐ人々。あらゆる生命、あらゆる自然現象には精霊が宿り、意思を持ち、その精霊たちは姿、形を変えながら宿り続け、森羅万象を静かに見つめ続ける。
あらゆるすべてのものは繋がり紡ぎあっている。




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